映画「マザー」(MOTHER)原作と実話と長澤まさみの演技力 ネタバレのネはネグレクトのネ

2020年7月3日より公開。長澤まさみ主演、監督・脚本は『さよなら渓谷』『日日是好日』の大森立嗣(たつし)。監督のお父さんは麿赤児、弟は大森南朋!一筋縄ではいかない作品のはずだとなぜか納得。事実がベースになっているのがしんどい。




長澤まさみが母親役を演じるようになったんだなーと。彼女の代表作になるに違いないですね。




映画「マザー」(MOTHER)実話、最近起きた事件も思い起こさせる ネグレクトによる死亡事件はなくならない

映画を観て久々に重くなった、自称ゆるい映画ライターのモグモグです。フィクションだけどフィクションじゃないんだもん。

2014年3月に、埼玉県の川口で17歳の少年が祖父母を殺害し現金とキャッシュカードを盗むという事件が起きています。

事件と裁判を取材したルポが書籍化されています。映画のエンドロールにもこの本のタイトルが。

実際に起きた事件に至るまでの時系列や登場人物は、映画の中では前後したり変えられたりしています。

長澤まさみが演じる母親の秋子、5年生の息子周平を一人家において何日も留守にすることも。ここで周平が死ぬことはありませんでしたが、ガス、電気が止まり、カップ麺をそのまま齧る姿や、テレビゲームをしている最中に真っ暗になるシーンを観ていると何とも言えない気分に。

観ていてすぐに思い出したのは、映画が公開される直前にネグレクトで子供を死なせてしまった事件。

3歳女児放置死事件

他にも

2010年に発生した大阪市西区のマンションで2児が母親・下村早苗の育児放棄によって餓死した事件。子供らには、食べものがなくなり、ゴミ溜めの残飯を漁り、カップ麺の容器も綺麗に舐めた跡があった。映画「子宮に沈める」の元になった事件。

2008年、埼玉県三郷市で2歳の男児が布団の上で動かなくなっているのを近くに住んでいる祖父が見つけた事件。島村恵美は、子供を残して自分だけが交際相手との家へ引越し長男に育児を任せて次男を死亡させた。

北海道苫小牧市で2007年2月20日に発覚した児童虐待死事件。山崎愛美は、煩わしさから育児を放置し、餓死に至らせた。判決が下された後には、4人目の子供が生まれた。「子宮に沈める」の元になった事件。

容疑者である親自身も虐待を受ける等の劣悪な家庭環境で幼少期を過ごしていることが多い印象ですが、映画では大学を出て就職している妹がいたり(その妹にも金の無心を度々しています)、孫を気遣う祖父の姿など、家庭環境が悪かったと思わせるところはありませんでした。

ただ、秋子は妹ばかり可愛がっていたと母親をなじるシーンがあり、屈折した過去があることは匂わせています。


映画「マザー」(MOTHER)あらすじとキャスト紹介 誰の目線で観るか 新人の奥平大兼がすごい

仕事が続かず、パチンコや交遊費で生活保護費、別れた父親からの養育費もあっという間に無くなり、息子の周平に金の無心をさせる母親、三隅秋子。『ビールダッシュ』『ばあちゃんダッシュ』と言っては息子を使い走りにさせます。

秋子がゲームセンターでひっかけた男、川田遼。のちに内縁の夫となる遼をアパートに連れ込む母親。

阿部サダヲはろくでなしの男を演じるのもうまいですね~!声がうるさい!嫌いじゃない。

秋子の節操の無さがすごい。そんな母親から離れられない周平。

周平の演技がきらりと光りまくっていた奥平大兼(おくだいらだいけん)くん16歳。

本作がデビュー作だそう!これからの彼に要チェックかと。

児童相談所の職員、高橋亜矢。夏帆って年取らないよな~

役柄では自らも幼少期に虐待を受け施設で育ったことを周平に話しています。同じ目線に立てる職員って実際多いんだろうか。いわゆる通常の家庭で育った職員はどこまで寄り添えるのかと今回映画を観て思いましたね。

とにかく、長澤まさみがひどいの。いや、秋子がひどいの。毒親でホームレスにもなる、汚い母親役を長澤まさみは演り切ったと思う!長澤まさみの目がいつも死んでいてキュンキュンしました。

この映画は観る人を選ぶというか、観る人の置かれている立場で随分と違ってくるのではないですかね。過去を思い出す人もいるかもだし、秋子に共感できる人、まったく共感できない人、周平の気持ちが理解できる人、できない人、特に最後の方で児童相談所職員の亜矢に告白する周平の気持ちを理解できる大人っているのかと思う。

虐待を受けた子供が親のことを悪く言わないとか、実際に起きた事件で残された子供たちが親は悪くない自分が悪いって言っちゃうのは、大人になったらもうその感覚は理解できないんじゃないだろうか。


映画「マザー」(MOTHER)あらすじとネタバレ

2004年に公開された是枝裕和監督の『誰も知らない』を思い出した人も多いのでは?

この映画も1988年に起きた巣鴨子供置き去り事件がベースとなっているそう。

秋子は遼との間の子供を身ごもり、産むんです。

産むんですよ。

なぜ生活がひっ迫しているのに産む選択をするのか。

生活保護で動物を飼っている、それも多頭飼いの人も多いです。

この心理は難しいと思います。

内縁の夫には2度出ていかれ、その後は周平を働きに出すも相変わらずの生活を送る秋子。

祖父母を殺したらお金を手に入れられる、そう話す秋子に何げなく賛同する周平。

(殺すことが)できるのかできないのかと秋子にたたみかけられ、殺すことを選択してしまう周平。

『君とお母さんは共依存なんだ』と言われても母親をかばい続け、祖父母殺害を自分一人で決めて行ったと検事に話します。母親に指示されて犯行に至ったとしたいわけです、量刑も違ってくるんだよと。それでも頑なにお母さんの指示ではないと主張。

面会時に亜矢になぜ母親をかばうのかと尋ねられ

『お母さんのことが好きなんだ』と。

洗脳だーと思うと同時に、寺山修司の『身毒丸』が心に浮かんだモグモグ。

継母との話なのでちょっと違うっちゃ違うんですが。

秋子と周平は心の近親相姦的な。

絶対的な存在として君臨する母親、抗えない息子(娘)、映画ポスターのキャッチコピーに『マリアかモンスターか』とありますが、周平にとっての母親の存在をよく言い表しているなと映画を見終えた後に思います。

世のお母さんたちに幸あれ。

公式サイトはこちら



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